母のお金が「なくなる」ようになったのは、二年前。母が、手術をしたあたりからでした。
- 親からの探し物の電話
- 見つかるまでの生きた心地のなさ
- だんだん増えていく回数
- お金の話を切り出せない気まずさ
「お金、なくなったー」
この一言を聞くたびに、私の心臓はバクバクしました。あの落ち着かない気持ちを、もうなるべく避けたい。そう思って、母の通帳を預かることにしたのです。この記事では、預かるまでにどう話し合ったのか、そして実際にやってみて分かった五つの工夫を、そのままお伝えします。
親のお金がなくなる時のサイン

最初は、誰にでもあることだと思っていました。財布を置き忘れる。しまった場所を忘れる。私にも覚えがありますから、特別なこととは感じなかったのです。けれど振り返ってみると、あのころにはもう、いくつかのサインが出ていました。ここでは、私が見逃していたものを書いておきます。同じ場面に心当たりのある方は、少し気にしてみてください。
ATMでの取り忘れ
大型のショッピングモールにあるATMで、母はお金を取り忘れました。操作は終わっているのに、現金を抜き取らないまま、その場を離れてしまったのです。
幸い、あとから手元に戻りました。このときは「たまたまだろう」で済ませています。
通帳をまるごとなくす日
次は、通帳そのものが見当たらなくなりました。財布ではなく、通帳です。さすがに血の気が引きました。
一緒になって、あちこち探しました。引き出し、鞄の中、棚の上。このときも最終的には見つかったのですが、探している間の時間は、本当に長く感じるものです。
回数が増えていく怖さ
怖かったのは、一つ一つの出来事そのものではありません。同じことが起きる間隔が、だんだん短くなっていったことでした。
- 最初は数か月に一度
- 次第に月に一度
- やがて月に何度も
ヒヤヒヤして、ホッとして。それを繰り返しているうちに、さすがに私も気づきました。これは、おかしい、と。
心臓がもたないと感じた瞬間
正直に書きます。私が通帳を預かろうと決めた理由は、立派なものではありませんでした。母の財産を守りたい、という気持ちももちろんあります。でもそれ以上に、自分がもう耐えられなかったのです。あの「なくなったー」の一言を聞くたびに、こちらの一日が止まってしまう。その感覚を、どう説明すればいいのか。同じ思いをされている方に届けばと思って、書いておきます。
なくなったーの一言の重さ
母の「お金、なくなったー」は、いつも突然でした。仕事中でも、家事の途中でも、関係なくやってきます。
その瞬間から、頭の中がその一件でいっぱいになるのです。どこで使ったのか。誰かに渡したのか。いくらだったのか。落ち着いて考えようとしても、心臓の音の方が先に大きくなっていきました。
一緒に探し回る日々
探すのは、たいてい私です。母は「ここには入れていない」と言い、私はその「入れていない」場所から見つけ出します。
- 鞄の内ポケット
- 使っていない財布の中
- 引き出しの奥
見つかったときの安堵は、大きいものでした。ただ、その安堵の裏で、また同じことが起きるという予感も、確実に育っていったのです。
盗られたではなくただなくす
母の場合、「誰かに取られた」と言うことはありませんでした。ここは、後になって大きな違いだったと感じています。
調べてみると、お金の話で家族が困るのは「盗まれた」と言われる場面が多いようです。母は、そうではありません。ただ、なくす。責める相手がいないぶん、本人も私も、静かに困っていたのだと思います。
親子でも人の財産という壁

預かると決めてから、実際に預かるまでには、それなりの時間がかかりました。言えばすぐに渡してくれる、というものではなかったのです。今になって思えば、当たり前のことでした。ここでつまずいている方も多いのではないでしょうか。私がどう考えて、どう話したのかを書いておきます。うまくいった方法というより、こうするしかなかった、という記録です。
すんなり頷いてもらえない理由
最初に切り出したとき、母は「うん」とは言いませんでした。はっきり断られたわけでもないのですが、明らかに気が進まない様子です。
そうですよね。たとえ親子でも、お金は「その人の財産」です。私にも、その感覚はありました。母自身も、きっと嫌だったと思います。
取り上げないと決めた判断
だから、無理に取り上げることはしませんでした。ここだけは、自分の中で決めていたことです。
通帳をこっそり持ち出すこともできたかもしれません。でも、そうしていたら、母は私を信用しなくなっていたでしょう。お金より先に、失うものがあると思ったのです。
何度も話し合った時間
結局、一度では決まりませんでした。何度も、何度も話しました。今どんなことが起きているか。このままだと、どうなりそうか。
母の場合は、まだ説明したら分かってくれたのです。あきらめたというより、最後は私を信用して、預けてくれた。この「まだ、話せば分かってくれる」というのは、実は当たり前ではないのだと、あとから知りました。
預かる前にやっておくこと
ここからは、実際にやったことを順番に書きます。まずは、預かる前の準備です。私の場合、たまたま何年も前に手をつけていたことが、あとになって効いてきました。もし今、親御さんがまだお元気なら、このあたりだけでも先にやっておくと、後がずいぶん楽になります。難しい手続きは、一つもありません。
工夫①通帳を二つに絞る
以前の母は、定期預金やら何やらで、通帳を何冊も持っていました。そのままだと、あとで複雑になる。そう思って、私はだいぶ前に二つに絞っていたのです。
今、預かっているのは通帳が二つと、印鑑が一つだけ。管理するものが少ないと、なくしたかどうかの確認も一瞬で済みます。
工夫②引き落としを年金口座に統合
引き落としも、年金が入る口座にまとめておきました。これをやっておいて、本当によかったと思っています。
- 入るお金と出るお金が一か所
- 残高を見るだけで状況が分かる
- 記帳のために何行も並ばなくていい
もう一つの通帳は、母がまだパートをしていて、指定の銀行があるので残してあるだけです。使う目的がはっきりしているものだけ残す。それくらいの整理で十分でした。
元気なうちに動く意味
通帳を絞るのも、引き落としをまとめるのも、本人が窓口で手続きできるうちでないと難しくなります。
私がやったころ、母はまだ自分で銀行に行けました。できるうちにやっておく。それだけで、選べる方法の数が変わってきます。
預かったあとに必要な工夫

預かってしまえば終わり、ではありませんでした。むしろ、ここからが本番だったように思います。人のお金を預かるというのは、思っていたよりずっと気を遣うものでした。とはいえ、難しいことをしているわけではありません。混ざらないようにする。忘れないようにする。その二つだけです。三つの工夫にまとめました。
工夫③財布を完全に分ける
最初につまずいたのが、これでした。私のお金と母のお金が混ざって、どちらがどちらだか分からなくなってしまったのです。
これはまずい、と思って、財布を別々に分けました。同じ鞄に入っていても、財布が違えば混ざりません。単純ですが、いちばん効きました。
工夫④立て替えはスマホにメモ
母が急に「お金なくなったから、ちょうだい」と言って、私が立て替えることもあります。その場では覚えていても、数日たつと分からなくなるものです。
- 日付
- 金額
- 何に使ったか
この三つだけを、その場でスマホのメモ帳に書くようにしました。あとでまとめて書こうとすると、まず忘れます。渡した瞬間に打つのが、結局いちばん楽でした。
工夫⑤渡す額の匙加減
いくら渡すか。これがいちばん難しいところです。少なすぎると母が困りますし、多すぎるとなくす金額も大きくなります。
今は、カツカツにはしません。少し余裕をもって渡す。でも、渡しすぎない。この匙加減は、正解が見つかったわけではなく、今も調整しながら続けています。
想定外だったじいちゃん問題
ここまで読んで、これで安心と思われたかもしれません。私もそう思っていました。ところが最近、まったく想定していなかったことが判明したのです。お金の管理というのは、本人と自分の間だけで完結しないのだと、思い知らされました。笑い話のようですが、同じことが起きているお宅は、案外多いのではないかと思っています。
勝手に借りていた事実
母は、お金がなくなると、じいちゃんに勝手に借りていました。私に言わずに、です。
どうりで、渡した額の割に足りているはずだと思っていました。計算が合わないときは、たいてい理由があるものですね。
ホイホイ渡す協力者の存在
そして、じいちゃんも、ホイホイ渡すのです。悪気はまったくありません。困っていると言われたら、渡してしまう。それだけのことです。
笑ってしまいましたが、これは笑い事では済まないところもあります。管理しているつもりでも、抜け道は必ずどこかにあるのだと分かりました。
周りへの一声の大切さ
今から思えば、預かると決めた時点で、周りにも伝えておけばよかったのです。取り上げるためではなく、状況を知っておいてもらうために。
「今こういう風にしているから、何かあったら教えてね」。その一言があるだけで、話は変わっていたかもしれません。
親のお金の管理でよくある質問
最後に、私自身が迷ったことや、調べてみたことをまとめておきます。ただし、私は専門家ではありません。制度の細かいところは、ご家庭の事情によっても変わってきます。ここに書くのは、あくまで一人の体験として読んでいただき、判断が必要なことは、必ず専門の窓口にご相談ください。五つに絞ってお答えします。
親が通帳を渡したがらない時は
無理に取り上げないことをおすすめします。私も一度では預かれませんでした。何度か時間をおいて、今どんなことが起きているかを具体的に話すうちに、母のほうから納得してくれたという形です。お金そのものより、信用の方が先だと思います。
認知症になると口座はどうなるのか
調べてみると、認知症と診断されたあとは、本人以外がお金を動かしにくくなる場合があると書かれていました。ただ、条件は金融機関によって違うようです。私自身は経験していないので、断言はできません。気になる方は、取引のある銀行に直接ご確認ください。
兄弟がいる場合の注意点は
私は一人娘なので、実体験としてはお話しできません。ただ、誰か一人が管理すると、あとで使い道をめぐって話がこじれることがあるとよく聞きます。預かる前に、ひと言伝えておくだけでも違うのではないでしょうか。
預かったお金の記録は必要か
私は、自分のために記録しています。誰かに見せるためというより、自分が忘れないためです。スマホのメモに日付と金額を残しておくだけでも、あとから振り返るときに助かります。
家族信託や成年後見は必要か
私は、どちらも使っていません。今のところ、母と話し合って決められる段階にあるからです。必要かどうかは、症状の進み具合やご家族の状況によって変わります。検討される場合は、自治体の窓口や専門家にご相談いただくのが確実です。
まとめ お金のことは話せるうちに
お金の管理を引き受けるって、こんなにいろいろあるんだなあ、と思います。それでも、あの「なくなったー」のたびに心臓がもたない日々よりは、ずっといい。何より、母がまだ話を聞いて「うん」と言ってくれるうちにできて、よかったと思っています。
- ①通帳を二つに絞る
- ②引き落としを年金口座に統合
- ③財布を完全に分ける
- ④立て替えはスマホにメモ
- ⑤渡す額の匙加減を続けて調整
五つと書きましたが、全部を今日からやる必要はありません。もし一つだけ選ぶなら、①の「通帳を絞る」からだと思います。これは親御さんがお元気なうちしかできませんし、あとの四つがぐっと楽になります。
そして、もし親御さんがまだ、話を聞いて分かってくれる段階なら。早めに、少しずつ備えておくといいかもしれません。その「まだ」は、いつまでも続くわけではないからです。
……にしても、ほんと。お金って、難しいですね。
親と出かけるときの気づきは、高齢の親と日帰り温泉へ行く時の注意点にも書いています。よかったら、そちらも覗いてみてください。

